モーツァルトのケッヘル番号 60年ぶりの改訂について
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2024年初夏、モーツァルトのケッヘル番号が実に60年ぶりに改訂され、『ケッヘル目録 2024』(ブライトコップ?ウント?ヘルテル社刊)として発表されました。
ブライトコップ?ウント?ヘルテル社HPの『ケッヘル目録2024』特設ページ:https://www.breitkopf.com/work/20546
モーツァルト研究の権威であるアメリカのニール?ザスロー博士と、オーストリア?ザルツブルク国際モーツァルテウム財団のウルリッヒ?ライジンガー博士との共同作業により完成したこの最新改訂版は、「ケッヘルの初版番号の原点に立ち戻る」、そして「作曲年代順配列への固執を放棄する」という、二つの方針転換を最大の特徴としています。
『ケッヘル目録 2024』の「本編」に収録される作品には K.番号が付与され、大まかに言うと以下のルールが適用されています。
?初版番号を有する曲にはそのまま番号を据え置く
?改訂番号のみを有する断片作品などは改訂3版または6版の番号で管理する
?番号を全く持たない作品(全95曲)には K.627?K.721 までの新しい番号を付与する
『ケッヘル目録 2024』の「付録」に収録される作品には、付録(Anh.)番号が付与されています。
ちなみに、モーツァルトの最後の作品は《レクイエム K.626》ですが、後から発見されて番号を全く持たない95曲の作品に K.627?K.721 までの新しい番号を付与するとは、なんと斬新な手法でしょうか!
さて、モーツァルトの作品に付けられるケッヘル番号(K.または KV番号)とは、ルードヴィヒ?リッター?フォン?ケッヘル(1800?77)に由来するものです。ケッヘルは著名な鉱物学者でしたが、モーツァルトの作品の散逸を防ぐために、1851年から作品目録の計画に着手します。そして1862年に『ヴォルフガング?アマデー?モーツァルトの全音楽作品年代順主題目録』(初版)をブライトコップ?ウント?ヘルテル社から刊行しました。ケッヘルのこの目録によって、モーツァルトが作った音楽作品の全体を把握することが可能になったのです。(また、彼はモーツァルトの作品全集の刊行を強く願っていました。ブライトコップ社と掛け合い、資金の寄付に関して自身の遺言書まで作成し、一生をかけて尽力したことは特記に値します。)
その後、モーツァルトの作品の作曲開始年が変更されたり、それまで失われていた作品が新発見されたり、真正であると信じられていた作品が偽作であることが判るなど、特に20世紀前半には研究に様々な進展が現れるようになりました。1937年にはアルフレート?アインシュタインによって『ケッヘル作品目録』の改訂第3版がもたらされます。ここでは年代順配列が組み替えられ、新たに追加される作品にも年代順に新たな作品番号を割り当てる必要があるという考え方から、二重番号(ケッヘル=アインシュタイン番号)が付与されることになりました。さらに『ケッヘル作品目録』は1964年には第6版を重ね、新たな研究成果が盛り込まれています。
このように、先人たちが苦心しながら改訂を重ねてきた「ケッヘル番号」の仕組みですが、モーツァルトの作品数があまりに多く、そして不明な点も多いために、複雑化の一途を辿るばかりでした。そこで今回の『ケッヘル目録 2024』では、これまでに積み重ねられてきた方針が大きく見直され、簡素化へと舵が切られたわけです。ただし、この新改訂の運用はまだ始まったばかりですので、広く浸透するにはしばらく時間がかかるかもしれません。あるいは社会や人々がこれを受け入れない場合も、絶対に無いとは言いきれません。
いずれにしても、これから先のモーツァルト研究や楽譜出版では、この画期的な『ケッヘル目録 2024』が活用されていくことでしょう。新改訂の成果を直接目にしたとき、私たちは新鮮な驚きに包まれるに違いありません。今後の動向を見守りつつ、モーツァルトの作品を探求していきたいと思います。(浦川 玲子)