第6回東邦ピアノセミナー報告

第6回東邦ピアノセミナー報告

講座当日のスケジュール ~平成24年7月29日(日) 会場:文京キャンパス

10:30~12:00 講座1 担当:春日 洋子
「時代様式に基づいたピアノ演奏とは-6」

13:00~14:30 講座2 担当:國谷 尊之
「児童期のビアノ指導教材の研究-3」

14:45~16:15 講座3 担当:上田 京
「ベートーヴェンのピアノソナタ」~楽譜から見えてくるもの~

16:30~17:30 懇親会

毎夏の恒例となった東邦ピアノセミナー」。今年も興味深い3つの講座が開かれました。講座を担当された3人の先生をお招きし、当日の様子を久邇之宜主任教授の司会でご報告します。

久邇:
「東邦ピアノセミナー」はおかげさまで回を重ねるごとに参加者が増え、第6回となる今回は過去最高の参加者数で活気づきました。各講座ともにテーマに連続性があり、毎年続けて聴講する意義があるからでしょう。
今日は講座を受け持ってくださいました春日先生、國谷先生、上田先生にお越しいただきました。まず、先生方に講座の内容と目的をお聞きしたいと思います。
では、「時代様式に基づいたピアノ演奏とは」の講座を担当された春日先生からお願いします。
春日:
「時代様式に基づいたピアノ演奏」と一口に言いましても、いろいろな考え方があり、さまざまな角度からのアプローチが可能です。今回は音楽の底力といえる「低音」に焦点を当ててみました。

以前よりピアノを演奏したり、指導する上で「支え」について考えるのは非常に大切であるという考えを持ってきました。過去2回当ピアノセミナーにおいて「身体」についての講座をもちましたが、楽器を思い通りに操作して音にするためには脱力が必要であり、そのためには身体の支えが不可欠なわけです。
一方で音楽の深い表現をするためには、主たるものとそのパートナーとの関係を理解することも重要であると思います。広い音域を自由に扱えるピアノ音楽において、おもにメロディーと関わる右手の領域を揺るぎのないものにし、相対的に音楽を司る低音は音楽の支えであり、左手の役目だと言えます。
時代により作品の中で左手パートがどのように移り変わったかを検証し、具体的に演奏しながらその変遷をたどってみました。
久邇:
グレゴリオ聖歌から振り返り、「低音」が音楽史の中で、どの様に変化を遂げたのかユニークで興味深い内容でした。私には思いもよらなかった展開で、とても新鮮に感じました。相当時間をかけて準備された講座だったと思います。
どのように準備をして臨まれたのでしょうか?
春日:
文献を読み直したり、作品を弾くことであらためて時代の移り変わりを見直してみました。また学生を指導しながら得たことも合せてまとめました。
音にすることで左手の動きや響きを直接感じていただきたかったのですが、あまりにも曲数が多いので作品を選ぶのが大変でした。
久邇:
素晴らしい講座をありがとうございました。それでは國谷先生にお話しを伺いたいと思います。
國谷先生は今回、5回目の講座で、「児童期のピアノ指導教材の研究」も3回目を迎え、ますます充実してきたと思いますが、いかがでしょうか?
國谷:
このピアノセミナーに参加されるみなさんの中には、普段からピアノのレッスンに携わっている方や、ピアノ教育に関心をお持ちの方が多数いらっしゃいます。そこで第1回のセミナーから継続して、ピアノ指導法や教材の研究に関係する講座を必ず1つ設けてきました。
指導教材の研究も第2回セミナーでの「導入期のピアノ指導教材の研究」から数えて今回は4回目となるので、児童期の生徒に対するピアノ指導教材について、「バロック期」の作品や、ポリフォニー能力を無理なく育てる近年に刊行された教材のご紹介とその分析を行いました。
児童期は、生徒さんたちが将来にわたって音楽を楽しむことができるかどうかを決める大切な時期ですので、とりわけ教材の選び方も重要です。
指導者としても勉強しがいがあると同時にご苦労が多いと思いますが、そうした日頃の教材選びのヒントを提供できればと思い、この内容にしました。
久邇:
教材選びのためのヒントがたくさん 盛り込まれていて、子どもにピアノを教えている多くのレスナーの方々の心を射止めていました。実際に連弾しながら講義される場面もあるなど、とても実践的でわかりやすいものでした。ご苦労されたのはどんなところですか?
國谷:
子どもたちに対するピアノ指導教材は年々研究が進み、次々と新しい教材が出版されています。講座を担当するからには、そのような新しい状況にも常に目を向けていなければならないのは当然ですが、本当に満足のいく研究をしようと思うといくら時間があっても足りません。当然ながら大学ではピアノ指導教材の研究だけをしていれば良いわけではなく、むしろそうした時間を確保するのは極めて難しい状況でしたので、事前の情報収集とその研究の時間を捻出するのが一番苦労したところです。
久邇:
限られた時間での準備や研究、お疲れ様でした。
それでは上田先生、先生は「ベートーヴェンのピアノソナタ」を取り上げられました。なぜこの題材を取り上げたのか