第17回 東邦ピアノセミナー報告

第17回 東邦ピアノセミナー報告

6月30日に澳门百利宫官网_百利宫赌场平台¥注册网址文京キャンパス内の創立50周年記念館コンサートホールにて、第17回となる東邦ピアノセミナーが開催された。今年度よりピアノ専攻の主任となった秦はるひ特任教授のあいさつに続く、学部4年生によるフォーレ《ノクターン第4番》をオープニングとして、浦川玲子専任講師と國谷尊之教授による2つの講座が行なわれた。

■講座1 「モーツァルトのピアノ?ソナタ第11番イ長調KV331《トルコ行進曲付き》の解釈と演奏」
講師:浦川 玲子先生[澳门百利宫官网_百利宫赌场平台¥注册网址専任講師]

 浦川玲子専任講師による講座1のテーマは『モーツァルトのピアノ?ソナタ第11番イ長調KV331《トルコ行進曲付き》の解釈と演奏』。モーツァルトのソナタの中でも「第1楽章が変奏曲であり、ソナタ形式の楽章が存在しない」という稀有な作品を、メインの受講者であるプレイヤー/レスナーの演奏活動のヒントとなるような具体的なアドバイスを交えながら、多角的に解説した。
 まずは近年の研究に基づく作曲年代の議論と、新しい校訂により音の違いもあり、「現在でも研究が進んでおり、曲の解釈もアップデートが必要」ということを実感させられる。第1楽章は変奏曲の主題の音型を分析し、それが各変奏曲でどのように現れているか(つまり何を意識して弾くべきか)を、第3楽章《トルコ行進曲》との関連性にも言及しながら細かく解説した。まず、主題の各小節冒頭の音が音階になっており、これは楽章を通じて現れるので意識する必要がある。また、テンポが遅い/速いにかかわらず「トリル」の音型や「回音」の音型が現れる場合もやはりそう意識するよう指摘された。
 また、実際にトリルが表記されている部分については「記譜の音からトリルを開始すること」、装飾音符に関しては「拍の前に出さない方がよい部分」なども注意喚起した。
 第2楽章はメヌエットの踊り方について、図や動画で説明。浦川専任講師自らが見本を見せ、受講者もその場で立って動きを付ける場面もあった。膝を曲げてから伸び上がる動きとステップの組み合わせによるメヌエットの踊りが、そのまま拍の感じ方につながっていることが実感できた。
 第3楽章《トルコ行進曲》はまずトルコ伝統の軍楽隊の楽器や行進のしかたを動画で確認。特徴的なシンバルやズルナ(チャルメラに似たダブルリード楽器)の音色を聴き、「特に5、6小節目の八分音符はあまり弾まず、管楽器ズルナのように「コーダの前のfはシンバルや太鼓が入ったにぎやかなイメージで」とアドバイス。実際にこの曲をズルナ、シンバル、太鼓などのトルコ伝統の楽器で演奏した動画も鑑賞した。
 講座を通して、ヴィジュアル的にもイメージできるような、具体的で実践的な内容であった。

■講座2 「ドビュッシーのピアノ作品~その音楽語法の変遷と、演奏法の考察~」
講師:國谷 尊之先生[澳门百利宫官网_百利宫赌场平台¥注册网址特任教授]

 講座2は國谷尊之教授による『ドビュッシーのピアノ作品~その音楽語法の変遷と、演奏法の考察~』。
まずドビュッシーの特徴の1つである「調性からの離脱」に焦点を当て、同様に調性からの脱却を図ったシェーンベルクやスクリャービンと比較。「調性からの離脱」と言っても三者三様であることが理解できる。
 続いてはドビュッシーの音楽語法の変遷を大きく3期に分類し、彼の音楽世界がどう完成されていったのかを解説。
 第1期[習作期?自己形成期(1880-1900)]は、ピアノレッスンを通してショパンに大きな影響を受け、さらにボードレール、ヴェルレーヌ、マラルメといった印象主義の詩人からインスピレーションを得、そして1889年、1900年のパリ万国博覧会でガムランをはじめとする世界の様々な音楽に触れ、それらを自分の音楽に取り入れるきっかけとなるなど、後の彼の音楽につながるものとなった。
 第2期[確立期?発展期(1901-1909)]では、教会旋法、5音音階、全音音階、平行和音などを活用して新たな語法を展開していく。ここでは主和音、属和音といった機能和声、そして旋律線から解き放たれ、「自由を獲得した」としている。しかしそれらを「破壊した」わけではない。
 第3期[自在期(1910-1918)]では獲得した自由を駆使して、「この世の森羅万象をすべて音楽で表現する」というドビュッシー独自の世界を創り上げる。そこで彼の音と音をつなぎとめているものはリズムであり、「リズムなくしてはドビュッシーの世界が崩壊する」と、リズムの重要性を再確認した。
 続いてドビュッシーと深い親交のあったピアニスト、E?ロバート?シュミッツの著書『ドビュッシーのピアノ作品』から、「対位法」「和声」「旋律」「リズム」「スコアリング」「拍子とテンポ」「ペダリング」「ピアノのタッチ」などドビュッシーのピアノ作品を演奏するために必要な要素について解説。
 興味深かったのは「スコアリング」であり、音域によって(声部によって)全く違う距離感で書かれている場合があるということ。3段譜の使用はその表れでもあるが、声部ごとの距離感を分析?理解して演奏することが、ドビュッシーの世界観を立体的に表現できることにつながると実感した。また、ペダリングについても「踏む量とスピードを、踏む動きと上げる動き、それぞれを独立して繊細にコントロールする必要がある」と話し、「注意しないとドビュッシーの語法を台無しにしてしまう」と、その重要性を強調した。
 そして残った時間で、ピアノに向かい、先に述べられた各要素を実際に確認しながら、14曲ものドビュッシー作品を解説していった。講座全体から、國谷教授のドビュッシーに対する深い理解と愛情が伝わってきたのだった。

(文=今泉晃一)

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